名古屋の文化財「古川美術館・分館 爲三郎記念館」で味わう芸術と和の空間

美術を愛する男性や落ち着いた美術館デートを楽しみたいご夫婦・大人カップルに、愛知県名古屋市にある「古川美術館」と分館の「爲三郎(ためさぶろう)記念館」をご紹介します。

名古屋市内の閑静な住宅街にたたずむ古川美術館は、実業家であった古川爲三郎(ふるかわためさぶろう)が、自身が収集した好きな作家の絵画や工芸品など幅広いジャンルの美術品を、多くの人に楽しんでもらおうと開館した美術館です。

また、爲三郎の没後、私邸を一般公開して開館された爲三郎記念館は、国の登録有形文化財にも登録されている趣深い日本建築です。ここでは定期的にお茶会も行われています。

古川美術館・分館 爲三郎記念館の魅力について、主任学芸員の山内綾子さんにお話を伺いました。その内容をもとに、両施設の魅力をまとめてご紹介します。

名実業家のコレクションが集う「古川美術館・分館 爲三郎記念館」

古川美術館に所蔵されている上村松園の「初秋」▲古川美術館に所蔵されている上村松園の「初秋」

古川美術館は、名古屋市の地下鉄東山線「池下」駅から徒歩3分、または「覚王山」駅から徒歩5分程度の閑静な住宅街に位置しています。

所蔵品は、横山大観、上村松園、川合玉堂らによる近代日本画を中心に、油彩画、陶磁器、工芸品、15世紀の手描き彩飾写本など、約2800点に及びます。これらは初代館長・古川爲三郎が、長年にわたって収集してきた美術品のコレクションで、「私蔵することなく広く楽しんでいただきたい」という願いから美術館として開館されました。

古川美術館に所蔵されている横山大観の「霊峰不二」▲古川美術館に所蔵されている横山大観の「霊峰不二」

分館の爲三郎記念館は、爲三郎の私邸を「みなさんの憩いの場として使っていただきたい」という遺志により公開されています。ここでは企画展示や茶会が開催され、邸内に併設された"数寄屋de Café"で、美術鑑賞後にくつろぐこともできます。

充実した所蔵品と隠れ家のような雰囲気が魅力の古川美術館・分館 爲三郎記念館は、美術を愛する方々、ご夫婦や大人のカップルにとって、格別な時間を過ごせる人気のスポットとなっています。

何度でも楽しめる「古川美術館」の多彩な企画展・特別展

古川美術館の2階展示室

古川美術館では常設展示を行わず、年間5~6回ほどの企画展・特別展を開催しています。

展覧会の内容は多彩で、所蔵品をさまざまなテーマや切り口から紹介する所蔵企画展や、他の美術館や個人コレクターから借用した作品を中心とした規模の大きな特別展などがあります。このように展示内容が定期的に変わるため、何度訪れても新しい発見があり、そのたびに楽しめる美術館といえます。

ここからは、古川美術館の展示の魅力をさらに詳しくお伝えします。

世界史ファン必見「ブシコー派の画家の時禱書」の魅力

「ブシコー元帥の時禱書」の扉絵▲『ブシコー派の画家の時禱書』扉絵より「受胎告知」(左)と「マギの礼拝」。華麗な装飾が当時の文化を伝える

古川美術館には「ブシコー派の画家の時禱書(じとうしょ)」と呼ばれる中世フランスの装飾写本があります。日本では珍しい完本(完全な本の形)で、この作品のファンも多く、数年に一度、特別公開をしています。

時禱書とは、中世ローマ・カトリック教会の信徒が祈りの時間ごとに使用した個人用祈祷書を指します。当時のフランスやフランドル地方では、貴族が華麗な装飾を施したものが盛んに制作されました。

古川美術館が所蔵する「ブシコー派の画家の時禱書」は、ブシコー元帥と呼ばれたジャン・ル・マングル二世が注文して作らせた「ブシコー元帥の時禱書」という本と、構図や画風、色彩が極めて似ています。同じ工房で制作されたものと考えられることから「ブシコー派の画家」と名付けられました。ブシコー派の写本工房の画家たちは、「ベリー公のいとも豪華なる時禱書」(コンデ美術館蔵)を制作したことで有名なランブール兄弟と並んで、当時の欧州において活躍した画家たちと言われています。

オリジナルの装丁と縁絵の両方を伴う完本は、日本ではとても珍しいものです。また、牛皮紙に書かれた祈りの言葉の飾り文字や欄外装飾、美しい扉絵は色彩もよく残り、見る人を中世の世界へといざなってくれます。

装飾写本に造詣の深い方や中世の世界史が好きな方には、心惹かれる要素がたくさん詰まったこの写本。特別公開中には全国から装飾写本ファンが訪れるそうです。

次世代アーティストの発掘「古川美術館公募展Fアワード」

2024年度「第3回公募展 古川美術館Fアワード ~次世代につなぐ~入選作品展」広報チラシ▲2024年度「古川美術館公募展Fアワード~次世代につなぐ」の広報チラシ

古川美術館では、若手芸術家の発掘と支援に力を入れています。過去には4回にわたり、40歳以下の日本画作家を対象とした「若手作家展」を開催してきました。2021年からは、この取り組みを発展させ、「古川美術館公募展Fアワード~次世代につなぐ」として継続しています。現在は、高校生・大学生を含む30歳以下の方を対象とし、入選作品を展示しています。将来の美術界を担う新進気鋭のアーティストの作品に触れる貴重な機会となっているため、芸術に関心のある方にとって見逃せない展示会です。

また、古川美術館では近年、絵画作品だけでなく工芸作品の展示にも力を入れています。特筆すべきは、国内最大規模の工芸公募展「日本伝統工芸展」の東海展が、従来の百貨店会場から古川美術館へ移行したことです。この変更により、多くの方々が美術館で質の高い伝統工芸作品を鑑賞できるようになりました。

美術品デザインの文房具も充実「ミュージアムショップ」のオリジナルグッズ

古川美術館のミュージアムショップ▲ミュージアムショップでは、古川美術館に訪れた記念やお土産として、オリジナルグッズを購入できる

展覧会の思い出を形に残したり、お土産を探したりするなら、ミュージアムショップに立ち寄るのがおすすめです。

古川美術館のミュージアムショップでは、展覧会の図録をはじめ、所蔵作品の絵葉書、文房具など、さまざまなオリジナルグッズを取り揃えています。

美術作品がデザインされたメモパッドやボールペンなど、センス溢れる文房具も豊富に用意されています。これらを使えば、オフィスや自宅のデスクに芸術的な彩りを添えることができるでしょう。

また、人気作品「ブシコー派の画家の時禱書」に関連したグッズや、手土産に最適なクッキー、オリジナルコーヒー、さらには展覧会に合わせた期間限定のグッズなども販売しています。

国登録有形文化財「分館 爲三郎記念館」で味わう美しい日本建築

緑に囲まれた爲三郎記念館の外観▲四季折々の植物に囲まれる記念館。新緑の頃には、若葉の生命力あふれる香りが漂い、日々濃さを増す緑がまぶしい

ここからは、分館である「爲三郎記念館」についてご紹介します。

爲三郎記念館は、古川爲三郎の私邸でした。母屋の数寄屋造り「爲春亭(いしゅんてい)」や、庭園の茶室「知足庵(ちそくあん)」など6棟が、国の登録有形文化財に登録されています。

この美しい日本建築には、ゆったりとした贅沢な時間が流れているようです。庭園には5本の大きな椎の木をはじめ、四季折々の植物が植えられ、季節ごとに表情を変えて訪れる人の目を和ませます。日本建築や庭園愛好家にとって、魅力的な空間といえるでしょう。

記念館の企画展示では、部屋ごとに異なる意匠を活かし、作家が建物や各部屋の特徴に合わせて作品を選び、展示方法を工夫して空間を演出します。

数寄屋造りの空間を活かした「ここならでは」の展示演出

爲三郎記念館の室内から庭園をのぞむ

爲三郎記念館は伝統的日本建築である数寄屋造りの建物です。そのため、美術館のような厳密な温湿度管理が難しく、温湿度の影響を受けにくい陶器などの工芸品展覧会が多く開催されています。

展覧会の形式も多様で、複数の作家によるグループ展が頻繁に行われます。例えば、共通のテーマに沿って各作家が部屋ごとに展示を担当したり、部屋ごとに作家それぞれのテーマで展示をしたりと、創意工夫を凝らした演出が来場者の心を捉えます。

一般的な美術館によく見られるホワイトキューブ(白い壁・白い天井の空間)とは異なる爲三郎記念館の展示空間は、美術館通いに慣れた方にも新鮮な体験を提供し、大きな魅力となっています。

本格的茶席体験「古川美術館所蔵のお道具で楽しむお茶会」

爲三郎記念館でのお茶席の様子▲立礼式のお茶席は、初めてのお茶席体験にもおすすめ

記念館では、展覧会開催時に「気軽な茶席」が設けられます。

立礼式(りゅうれいしき:テーブルと椅子を使ってお茶を出すこと)で、名前の通り気負わずに参加できるので、「お茶を体験してみたいけれど敷居が高い」と感じていた方にも、親しみやすい機会となっています。

茶席で使用されるお道具は、古川美術館の所蔵品です。抹茶碗は同美術館とゆかりのある陶芸家によって作られたものを使用しています。季節によってお道具や趣向も変わるので、それを楽しみに訪れる方も多いそうです。

また、陶芸家の展覧会の際には、会期中にその作家のお道具を使った茶会が開催されることもあります。こちらは気軽な茶席よりも少し本格的な予約制のお席となっています。

ただし、こちらの茶会も茶道に詳しくない方でも参加しやすいよう工夫が凝らされているので、安心して参加できます。普段着での参加で問題ありませんが、少しお洒落をしたり着物を着たりと、来場者それぞれが思い思いの楽しみ方をしています。

日本庭園を眺めながら寛ぐ「数寄屋de Café」の甘味処

爲三郎記念館にある「数寄屋de Café」の「おぜんざい」▲冬季限定メニューの「おぜんざい」。寒い日に、身体だけでなく心まで温まるような味わい

爲三郎記念館内にあるミュージアムカフェ「数寄屋de Café」では、展示された作品や日本庭園を眺めながら、季節の和菓子と抹茶のセットなどのメニューを楽しめます。

記念館には多くの窓があり、たくさんの光を取り込んでいます。カフェの席は、庭園を望む大きなガラス窓に沿って配置されています。庭園の樹々や訪れる野鳥を眺め、滝や川の水音を聞きながら甘味を楽しむひとときは、贅沢で心癒される時間となるでしょう。

特に、ご夫婦やカップルで訪れた際には、ぜひ立ち寄って、ひと休みしながら展覧会の感想などを語り合ってみてはいかがでしょうか。

カフェのメニューの中でも、ご夫婦や大人のカップルには「季節の和菓子とお抹茶のセット」が一番人気だそうです。季節の和菓子は週替わりで、和菓子が変わるごとに訪れるファンもいるほど人気があります。冬季限定メニューのぜんざい、夏は冷やし、冬はホットで頂ける甘酒も人気メニューです。(※)
※カフェの利用には、美術館との共通券(1,000円~)もしくは、記念館だけの単館券(500円~)が必要
※共通券・単館券とも展示内容によって金額が変動します。

記念館にはミュージアムショップもあり、ここならではのグッズが揃っています。お抹茶や茶せんなど茶道関係のグッズも多く、お茶席に参加して興味を持った方は、ぜひ手に取ってみてください。

爲三郎記念館のミュージアムショップ▲オリジナル和菓子や茶道関係のグッズも購入できる爲三郎記念館のミュージアムショップ

また、数寄屋de Caféで提供されているオリジナル和菓子「夢寿夢寿(むじゅむじゅ)」もショップで購入することができます。

あんこを黒糖羊羹で包んだ上品な味わいのこの和菓子は、古川爲三郎の好みに合わせて作られたものです。103歳まで元気に活躍した爲三郎にあやかり、長寿と夢の多い人生への願いが込められた銘菓となっています。

歴史ある空間で思い出を「爲三郎記念館のウェディングフォトプラン」

爲三郎記念館でのウェディングフォトの画像▲歴史ある空間で記念の1枚を残せる(名古屋東急ホテル提供)

爲三郎記念館では、記念写真を撮影するフォトプランを提供しています。

プランは「ウェディングフォト」「成人式フォト」「コスプレフォト」の3種類があります。撮影場所は主に爲三郎記念館の邸内と庭園です。美術館の開館前であれば、美術館ロビーや螺旋階段での撮影も可能となります。

爲三郎記念館でのウェディングフォトは、美術館や日本建築、日本庭園を愛するカップルにとって理想的な選択肢です。歴史ある建物や美しい庭園を背景に、思い出に残る写真を撮影することができます。

来館者が語る「古川美術館・分館 爲三郎記念館」の魅力

古川美術館の外観

  • 静かにゆったりと鑑賞できる、大人のための空間。展示も見ごたえのある貴重な作品が多く、心が豊かになる感覚を味わえる。
  • 企画展が毎回魅力的で、何度訪れても新しい発見がある。近くを訪れた際には立ち寄りたくなる美術館。
  • 爲三郎記念館は美しく風情のある建物で、長時間過ごしたくなる雰囲気。日本庭園を眺めながらお抹茶と和菓子を楽しむ時間は、格別な癒しのひととき。

充実した展示内容と日常から離れた居心地の良い空間が魅力的だと、特に大人の男性来館者から高評価を得ています。

「古川美術館・分館 爲三郎記念館」へのアクセスと利用案内

所在地 愛知県名古屋市千種区池下町2丁目50番
電話番号 052-763-1991
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
爲三郎記念館は、古川美術館の展示期間中、常時公開しています
休館日 月曜日(祝日・振替休日の場合は翌日)、展示入替期間、年末年始
入館料 A.古川美術館・分館 爲三郎記念館 2館共通入館券
一般:1,000円~
高校生・大学生:500円~
小学生・中学生:無料

B.古川美術館 単館券:800円~
 分館 爲三郎記念館 単館券:500円~

C.分館 爲三郎記念館「数寄屋de Café」呈茶料金:800円
※別途入館料が必要です

※A・Bの金額は展示内容により変動します。
公式ページ https://www.furukawa-museum.or.jp/

※最新の情報はホームページ等でご確認ください。